協定見直しの先送り
日本原子力発電(原電)東海第2原発(東海村)の運転を巡り、原電が地元と交わしている原子力安全協定について、立地・周辺自治体の首長が見直しを求めている問題で、昨年12月に非公開で開かれた協議の場で、原電が、協定は原発の再稼働まで規制せず、再稼働後に見直し協議を先送りしても問題ないとする見解を示していたことが1月31日、関係者への取材で分かった。
再稼働の事前了解の権限を周辺自治体まで拡大するため、協定の改定を求めてきた首長からは「協定に関係なく再稼働できるということか」などと一斉に反発する声が上がった。
昨年12月21日、東海村で開かれた原子力所在地域首長懇談会(座長・山田修東海村長)には、原電側から常務取締役、常務執行役員らが出席し、協定見直しに対する原電の考え方を初めて明らかにした。
東海第二原発と東海村の市街地=東海村で「あさづる」から
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屁理屈の羅列
原電側は、協定と再稼働、法定の40年を超えて運転するための延長申請は、それぞれ別物で、協定が再稼働まで規制するものではないとする解釈を表明。協定は「原発が運転を始めてからの仕組み」のため、再稼働後に、あらためて見直しについて議論できるとする考えを示した。
また、株主の電力各社の了解なしに、原電だけの判断で協定を改定することの困難さに言及。東京電力福島第一原発事故後、各地で協定の見直しが進んでいるものの、立地と周辺自治体の枠組みまで変更したケースがないことを強調し、見直しに消極的な姿勢を際立たせた。
原発反対デモ行進・土浦市民会館前にて
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事実と経緯を無視
協定は第五条で、原発の施設を新設、増設、変更する場合、東海第二原発が立地する県と東海村に新増設等計画書を提出し、事前に了解を得るよう定めている。必要があれば、協定を結ぶ周辺自治体にも意見を求める。この条文が、再稼働に自治体の事前了解を必要とする根拠になっている。
このため自治体側は原電に対し、再稼働の事前了解などの権限を、県と東海村だけでなく周辺自治体まで広げ、周辺で最も人口が多い水戸市などとも協定を結ぶよう求め、2012年から協議を続けている。
原電は14年、東海第2原発の新規制基準の適合審査申請に当たり、自治体側と「今後に係る判断を求める時の前までに協定を見直す」とする覚書を交わしている。
ゼロ回答と高橋水戸市長
水戸市の高橋靖市長は昨年8月の定例会見で、「原子力安全協定の見直しが要望通り図られることが前提となって初めて議論が生まれる」と述べ、協定の見直しなしに再稼働の地元協議は始まらないとした。
原電は、水戸市について協定を締結した隣接自治体と同等に扱う方針を初めて示したものの、協議後、高橋靖市長は「ゼロ回答」と険しい表情を崩さなかった。
首長懇は再考を求める
東京新聞の取材に対し、高橋靖市長は「協定の見直しのほか、適合審査の合格、避難計画の策定、全てがそろって初めて地元で再稼働の議論が生まれる」と繰り返した。
原電の広報担当者は「安全協定の枠組みは維持しつつも、各自治体の要請を真摯に受け止める」とコメントしたが、発言の内容については「会合は非公開のため」として明らかにしなかった。
首長懇談会は今後、原電に対し、発言について再考を強く求めていく方針だ。
市民は原電を強く批判
市民サイドから協定の見直しを訴え、昨年2月から署名を集めている「東海第2原発再稼働問題・署名実行委員会」の相沢一正さん(75)は、「原電が提案した覚書を自ら覆している。重大な約束違反だ」と憤る。「首長には当初に掲げた『権限拡大』を貫徹してほしい」と、今後も署名活動で首長たちの行動を後押ししていくという。
(東京新聞・山下葉月)
<原子力安全協定>
原子力施設の安全確保や周辺の環境保全を目的に、原子力事業者が自治体と結ぶ協定。施設の新増設に対する事前了解、運転停止の要請、立ち入り調査の実施などを定めている。
原電は東海第2原発が立地する県と東海村に加え、周辺のひたちなか、那珂、日立、常陸太田の4市と協定を締結している。
<原子力所在地域首長懇談会>
東海第2原発からおおむね30キロ圏の15市町村でつくる「東海第2原発安全対策首長会議」が協定の見直しを求めている。
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